遺言書を書いておくメリット
2026年07月10日
「遺言書はお金持ちが書くもの」「うちには揉めるほどの財産はない」——そう思っている方は少なくありません。しかし、家庭裁判所の調停・審判で扱われる遺産分割事件のうち、遺産額1,000万円以下のケースが約3分の1を占めています。「財産が少ないから揉めない」ということは、実はないのです。
先々週は「空き家を放置するリスク」、先週は「相続登記の義務化」をお伝えしましたが、今週はこれらの根本にある「相続そのものをスムーズにする方法」——遺言書についてお伝えします。ご自身が遺言を残す立場の方も、親御さんに遺言を勧めたい方も、ぜひご一読ください。
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▶ なぜ今、遺言書なのか
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近年、相続を巡る制度は大きく変わりました。
・2020年7月:自筆証書遺言書保管制度の開始
・2024年4月:相続登記の義務化
・2026年4月:住所変更登記の義務化(予定)
つまり、国全体として「相続関係をきちんと整理する」方向に舵が切られています。相続登記が義務化されたということは、相続人が話し合って名義を決めることが必須になったということです。話し合いがまとまらなければ、期限に間に合いません。
**遺言書があれば、この話し合い自体が不要になります**。これが今、遺言書を書いておくいちばん現実的なメリットです。
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■ 1.遺言書を書いておく5つのメリット
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▶ ① 家族間のトラブルを防げる
「うちの家族は仲がいいから大丈夫」——そう思っていても、いざ相続が始まると、想像しなかった問題が出てくることがあります。
・長男・次男の配偶者や子ども世代が口を出してくる
・生前の介護負担への評価をめぐって意見が対立する
・不動産という「分けにくい財産」の分け方で揉める
・「言った・言わない」の口約束が争いの種になる
遺言書があれば、これらのトラブルの多くを未然に防げます。
▶ ② 財産の分け方を自分で決められる
遺言書がない場合、財産は民法で定められた「法定相続分」に従って分けられるか、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めることになります。
遺言書があれば、「長男に自宅、長女に預貯金を多めに」といった、ご自身の考えに基づいた分け方を指定できます。特に「介護をしてくれた子に多めに残したい」「事業を継ぐ子に自社株を集中させたい」といった配慮は、遺言書でしか実現できません。
▶ ③ 相続人以外への遺贈ができる
法定相続人ではない方(内縁の配偶者、長男の嫁、お世話になった知人、公益団体など)に財産を残したい場合、遺言書が必須です。遺言書がなければ、これらの方に財産を渡すことは基本的にできません。
▶ ④ 相続手続きが大幅にスムーズになる
遺言書があれば、遺産分割協議書の作成が不要になります。相続人全員の署名・実印・印鑑証明書を集める必要もありません。
先週お伝えした「相続登記の義務化」との関係でも重要です。遺言書があれば、相続登記の手続きが格段に早く終わります。相続人が多い場合、遠方に住んでいる場合、疎遠な相続人がいる場合には、その効果は絶大です。
▶ ⑤ 空き家問題・所有者不明土地問題の予防になる
遺言書で不動産の承継先を明確にしておけば、「誰も名義変更しない」「相続人同士で押し付け合う」といった状況を防げます。これは所有者不明土地問題を解消したい国の方針とも合致します。
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■ 2.遺言書の種類——主に2つ
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民法上、遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類がありますが、実務で使われるのはほぼ「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。
▶ 自筆証書遺言(民法968条)
遺言者本人が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言書です。
★ メリット
・費用がほとんどかからない
・いつでもどこでも作成できる
・内容を他人に知られない
・書き直しが自由
★ デメリット
・形式不備で無効になるリスクがある
・紛失・改ざんのリスクがある
・遺言者の死後、家庭裁判所での「検認」が必要
・発見されない可能性がある
なお、2019年1月からは財産目録の部分に限りパソコンで作成したり通帳のコピーを添付したりすることが可能になりました。全ての手書きが必要だったこれまでよりも作成の負担は軽くなっています。
▶ 公正証書遺言(民法969条)
公証人が遺言者から内容を聞き取り、公証役場で作成する遺言書です。証人2名の立ち会いが必要です。
★ メリット
・公証人が作成するため形式不備の心配がない
・原本は公証役場で保管されるため紛失・改ざんの心配がない
・家庭裁判所での「検認」が不要
・遺言者の死後、公証役場の遺言検索システムで検索可能
★ デメリット
・費用がかかる(財産額に応じて数万円〜)
・証人2名が必要
・内容が公証人と証人に知られる
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■ 3.自筆証書遺言書保管制度——2020年7月開始
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「自筆証書遺言のデメリットである紛失・改ざん・検認の問題を解決する制度」として2020年7月10日にスタートしたのが**自筆証書遺言書保管制度**です。ご存じない方も多いのですが、非常に有用な制度です。
▶ 制度の概要
法務局(遺言書保管所)で自筆証書遺言を保管してもらえる制度です。手数料は**1件3,900円**で、以降の追加費用はかかりません。
▶ この制度の主なメリット
・遺言書原本は死後50年、画像データは死後150年間、法務局が長期保管
・法務局職員が遺言の外形的な確認(自書・日付・押印など)を行う
・家庭裁判所の「検認」が不要になる
・紛失・改ざんの心配がない
・遺言者が指定した人(最大3名)に、死亡時に通知が届く
・遺言者本人の生前は本人以外は閲覧できない
★ 注意点
法務局は「遺言の外形的な形式」しか確認しません。**遺言の内容についてのアドバイスや相談には応じてくれません**。「遺留分を侵害していないか」「トラブルにならない内容か」については確認してもらえないため、内容面は専門家(弁護士・司法書士・行政書士)に相談されることをお勧めします。
▶ 手続きの流れ
・自筆で遺言書を作成
・必ず遺言者本人が法務局の遺言書保管所へ予約して出頭
・申請書・住民票・本人確認書類・手数料3,900円を持参
・法務局職員が形式を確認し保管
★ 弊社からのコメント
「公正証書遺言は費用が気になる」「でも自宅で保管するのは不安」——こういった方には、自筆証書遺言書保管制度は非常に良い選択肢です。3,900円で法務局が50年間も遺言書を保管してくれる制度は、活用しない手はありません。
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■ 4.公正証書遺言の証人——誰に頼めばよいか
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「証人2名が必要」と聞くと、真っ先に思い浮かぶのが「家族に頼めばいいのか?」という疑問だと思います。実は、家族には頼めません。
▶ 証人になれない人(民法974条)
民法では、公正証書遺言の証人になれない人を明確に定めています。
・未成年者
・推定相続人および受遺者、これらの配偶者および直系血族
・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人
★ 具体的にはこんな人はNG
・配偶者、子、孫、両親、祖父母(推定相続人・その直系血族)
・兄弟姉妹(お子さんがいないケースでは推定相続人になるためNG)
・お子さんの配偶者(推定相続人の配偶者)
・遺言で財産を渡す予定の人(受遺者)とその家族
**要するに、遺言の内容によって利益や不利益を受ける立場の人は全員NG**です。もし欠格者が証人になった場合、遺言全体が無効になる可能性があるため、人選は慎重に行う必要があります。
▶ 証人になれる人
上記に該当しない人であれば、原則として誰でも証人になれます。特別な資格は不要で、実印も必要ありません(認印で可)。
・友人・知人
・会社の同僚
・仕事上のお付き合いのある方
・専門家(弁護士・司法書士・行政書士・税理士など)
▶ 家族以外に頼める人がいない場合
「知人に遺言の内容を知られたくない」「そもそも頼める人がいない」という方も多くいらっしゃいます。その場合は以下の方法があります。
・公証役場で証人を紹介してもらう(1人あたり5,000円〜1万円程度が目安)
・弁護士・司法書士・行政書士など専門家に依頼する(守秘義務があるため安心)
★ 弊社での対応
弊社で公正証書遺言の作成をサポートする場合、常駐の行政書士や連携している司法書士が証人を務めることが可能です。守秘義務がありますので、遺言の内容が外部に漏れる心配はありません。「証人をどうしよう」で悩んでいる方は、ぜひご相談ください。
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■ 5.公正証書遺言の費用の目安
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公正証書遺言の費用は「公証人手数料令」という政令で全国一律に定められています。
▶ 目安の金額
・財産1,000万円以下:手数料1万7,000円+遺言加算1万1,000円=約2万8,000円〜
・財産3,000万円以下:手数料2万3,000円+遺言加算1万1,000円=約3万4,000円〜
・財産5,000万円で相続人2人:合計5〜7万円前後
※詳細な金額は財産の分け方(受贈者ごとに計算)や作成枚数により変動します
▶ その他の費用
・専門家(弁護士・行政書士等)に作成サポートを依頼する場合:概ね10万円前後〜
・証人を公証役場に手配してもらう場合:1名5,000円〜1万円程度
・出張作成の場合:手数料50%加算+公証人日当(1日2万円、4時間以内1万円)+交通費
金額だけ見ると自筆証書遺言+保管制度の方が圧倒的に安価ですが、公正証書遺言は**「公証人が作成するので無効になる心配がない」「証拠能力が非常に高い」**という決定的なメリットがあります。財産が多い方・複雑な内容の方・確実性を重視する方には公正証書遺言がお勧めです。
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■ 6.遺言書を書くときの重要な注意点——遺留分
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遺言書があれば「何でも自由に決められる」わけではありません。**遺留分**という重要な制度があります。
▶ 遺留分とは
一定の相続人に法律で保障されている、相続財産の最低限の取り分です。遺言書でこの割合を下回る内容にすると、相続人から「**遺留分侵害額請求**」を受ける可能性があります。
▶ 遺留分の割合
・配偶者・子・直系尊属(親・祖父母)に認められる(**兄弟姉妹には遺留分なし**)
・配偶者または子が相続人の場合:財産全体の1/2
・直系尊属のみが相続人の場合:財産全体の1/3
・複数の相続人がいる場合は、上記に法定相続分を乗じたものが個々の遺留分
▶ 遺留分侵害額請求
2019年7月の民法改正により、旧「遺留分減殺請求」から「**遺留分侵害額請求権**」に変わり、金銭での請求のみに変更されました。つまり「不動産の一部を返せ」ではなく「その分の金銭を払え」という請求になります。
★ 遺言書作成の実務ポイント
「長男にすべての財産を相続させる」という遺言を書いても法的には有効ですが、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるとトラブルになります。遺言書を作成する際は、**遺留分を意識した内容にすることが重要**です。
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■ 7.「付言事項」で家族への想いを残す
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遺言書には、財産の分け方の指定(法的な部分)とは別に、家族への想いや希望を書き添える「**付言事項**」を記載できます。
▶ 付言事項の例
・家族への感謝の言葉
・遺言の内容を決めた理由(「長男に多く残すのは、事業と自宅を継いでもらうため」など)
・葬儀や供養についての希望
・「兄弟仲良く支え合ってほしい」といった願い
付言事項に法的な拘束力はありませんが、**遺言の内容を理解してもらい、遺留分請求などのトラブルを抑止する効果**が期待できます。「なぜこの分け方にしたのか」を遺言者本人の言葉で残しておくことは、残された家族にとって大きな意味を持ちます。
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■ 8.弊社のサポート体制
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弊社では行政書士が常駐しており、遺言書作成の相談・下書きサポート・自筆証書遺言書保管制度の利用サポートなどに対応できます。公正証書遺言の作成も、公証役場との調整・書類収集・証人手配などをお手伝いします。
★ こんなご相談を承っています
・不動産をどう分けるか迷っている
・親に遺言を書いてもらいたい
・自筆証書遺言書保管制度を活用したい
・公正証書遺言を作成したいが何から始めるべきかわからない
・相続税・譲渡所得税との兼ね合いも合わせて考えたい
・遺留分を侵害しない内容にしたい
★ 連携体制
弊社は司法書士・土地家屋調査士・税理士・弁護士との連携体制を整えています。相続対策・不動産・税金を総合的にお手伝いできることが弊社の強みです。
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▶ 遺言書は「元気なうち」が絶対条件
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遺言書は、遺言能力(判断能力)がある間にしか作成できません。認知症が進行してからでは作成が困難になります。「まだ早い」ではなく、「元気なうちに」が絶対条件です。
・不動産をお持ちの方
・お子さんが複数いらっしゃる方
・お子さんがいらっしゃらないご夫婦
・再婚されている方
・事業を営んでいらっしゃる方
・法定相続人以外にも財産を残したい方
このいずれかに該当する方は、遺言書の作成を強くお勧めします。
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「うちも書いた方がいい?」——まずはご相談ください。
遺言書の作成は「今のご家族の状況」「財産の内容」「将来のご希望」を整理することから始まります。何をどう書くか、公正証書と自筆証書のどちらが向いているか、遺留分をどう考慮するか——ご一緒に考えます。「まだ何も決めていない」「とりあえず話を聞きたい」という段階でも構いません。お気軽にお問い合わせください。
【参考】
法務省「自筆証書遺言書保管制度」
日本公証人連合会「公正証書遺言について」
